joseph carey merrick.

幸せになりたいだけなのに

思い出の意味、花束の庭

 

木になっているぶどうがすっぱいに違いないと諦めることができたらどんなに良かっただろう。届きそうに見えて、中途半端に手を伸ばしてしまった。そうして疲れ果てて、もう手を伸ばす事もできなくなったにも関わらず、私は無様にも果実を見上げ続ける。ぶどうは甘いに違いない。私は口を開けて腐り落ちてくるのを待っている。

 

ふと、病院の匂いが好きだったな、と思いました。ずっと昔のこと。平日の昼間、小児科の待合室には私と母親以外に患者は誰もいなくて、消毒液の匂いと、映画かなにかで聞いたことのある音楽のオルゴールアレンジが流れるている空間は、守られている、ということを子供心ながらに感じた。熱で朦朧とした意識の中、受付の人に名前を呼ばれるまでのほんの僅かな時間、母親に寄りかかって頭を撫でてもらうのが好きだった。待合室の隅にあるおもちゃや絵本なんてどうでもよくて、ただ側にいて撫でられていたかった。

私の知る限り、あの場所以上の安心というものはもうこの世のどこにもなくて、二度とあの場所に戻る事はできないのだから、怯えながら生きていくしかないのだろう。目眩がするほどの病院の残り香に、私は未だ期待をしている。