joseph carey merrick.

幸せになりたいだけなのに

作りものの呼吸

 

エンドロールの最中、主題歌の後に流れる誰も覚えていない音楽のような日々。現象だけが動いている。空想と現実の二律背反。鏡を見ると何か得体のしれないものが映っていた。そいつはかぷかぷ笑っていた。

 

唐突に昔暮らしていた場所を思い出してノスタルジーに浸りたいときがある。小学生のとき遊びに行って怒られた川、手入れされていない空き地の伸びきった雑草が生い茂る自動販売機までの砂利道、真夜中の散歩中、怖くて遠回りした工場裏。私はたしかにそこにいた。

先日実家に帰ったとき、8年程前に通っていた美容室に行ったときのこと。以前住んでいた家の近くを通ると、見る影もない程変わってしまっていた。私の思い出の中にある風景なんてものは最初からなくて、頭の中ででっち上げられた空想でしかないと錯覚するほど変わり果てていた。今そこにいる人達に合わせて世界は作り変わり、通り過ぎて行った者達は思い出の中に取り残される。

 

私が見てきたものも見ているものも全ては過去で、"今"に到達することは決してないのだなと思った。何万年も昔から、人はそうやって生きてきたのだろうな。

 

それでも、住宅地の少し先には、私が住んでいた頃からある小さな公園があった。そこは思い出の中のまま、子供心に退屈なほど小さな公園だった。立ち止まって、5秒くらい眺めて、通り過ぎていった。

私はたしかにそこにいた。

 

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